IBMマルチステーションとは、日本アイ・ビー・エム(以下IBM)が独自に開発した
ビジネス向けのパソコン(IBM自身は多機能ワークステーションと呼んでいました)の
愛称です。
・時代背景
アメリカではすでに5150(IBM ThePC)が発売され、後発ながら発売後すぐに
パソコンにおける事実上の標準の座を獲得していました。
日本でも8ビットより16ビットへの移行が始まり、三菱電機(Multi−16)を皮切り
に、日立(MB−16000)、富士通(FM−11)、日本電気(PC−9801)と次々と国
産の16ビットパソコンが発売されていました。
IBMでもパソコンを発売する必要に迫られていましたが、この時点でのパソコンでは
特別な仕組みなしでは、日本語の表示に必要な処理能力が得られませんでした
( i8088 を採用し、グラフィック画面に日本語を出力していたMulti−16の画面表示
はかなり遅かったようです)。
また日本語を24ドットで表示させるために、高解像度の画面表示が採用されるこ
とになりました。
そこであえてIBM PCとの互換性を切り捨てて、日本独自のハードウェアとして開発
されました。
しかし、この「PCとの互換性がない」ということが後に大きな問題となってきます。
・マルチステーションの登場とその後の経緯
1983年、最初の機種である「マルチステーション5550」が発売されました。
その後、下位機種としての「5540」、上位機種としての「5560」が追加されました。
しかし日本のメーカー、特にPC−9801のシェアが伸びるにつれ、次第に「IBMのコ
ンピューターであるにもかかわらず、IBM PCとの互換性がない」ことが問題とされて
きました。
そのころアメリカのIBMでは、PC/ATの次世代機として新しいバスであるMCA
搭載の「PS/2」と、そのOSである「OS/2」を開発していました。
そして日本でもマルチステーションの次世代機にはMCAを搭載してアメリカの機
種と互換性を持たせることになり、PS/2を日本語化した「PS/55」が開発され
ました。
1987年に最初のMCA機である「5570」が発売されました。
この時、マルチステーションよりPS/55にシリーズの総称が変更されました。
同時に最下位・普及機種の「5530」が追加され、その後ラップトップの「5535」が追
加されました。
そしてこれより後の5550−S/T/Vを始めとする新機種は全てMCA機となりま
した。
そしてMCA機が登場するごとに旧マルチステーションは整理され、1991年には全
てのモデルがなくなりました。
この後 IBMはPS/55の販売を続けますが、1990年代後半に「IBM PC」となり、
PS/55はなくなりました。
そしてその後MCAの機種の販売もなくなり、PC/AT互換機仕様の機種のみとなり
ました。
2005年5月にはパソコン事業をレノボに譲渡、IBM自身はパソコンより撤退してし
まいました。
・マルチステーションの名前の由来
マルチステーションとは「1台3役」、すなわち
日本語ビジネス・パーソナル・コンピューター
日本語ワード・プロセッサー
日本語オンライン端末
の機能を1台で切り替えて使用できる、という意味がありました。
・呼び方に注意
5570の発売時に、シリーズの名称が「IBMパーソナルシステム/55」に変更さ
れました。
この時より頭につく呼び方がMCA機と同じ「PS/55」になってしまい、2つの機種の
違いがわからない人には混乱を与えてしまうようになりました。
ちなみにマルチステーションの系列の各モデルは以下のとおりになります。
5550 A、B、C、D、E、(F)、G、H、J、K、M、P、(Y)
5560 G、H、J、K、M、P
5540 B、E、J、K、M、P
5530 G、H
5535 M
L、N、R、S、T、U、V、W、Z の名称がつくモデルはMCA機です。
Yに関しては両方存在します。
マルチステーションとMCA機のハードウェアの互換性は完全にありません。
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